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幸せの経済学・GNPからGNHへ


2008.05.31
明治学院大学教授
辻 信一
「スロー」や「GNH」というコンセプトを軸に環境文化運動を進めている




僕はいつも不思議でした。 環境危機というのは実に奇妙な出来事です。 人間が自分自身の生存の基盤を壊してしまう。 いったいそんなことがなぜ起こるのでしょう。 自分で自分を、また自分の子孫たちの首を絞めるようなことを、 私たち人間はどうしてやってしまうのでしょうか。 そんなことをするからには、よほどの理由があったはずです。 私たちを駆り立てるよほど魅力的な何か。 いったいそれは何だったのでしょうか。 僕が行き着いた結論、それが「豊かさ幻想」です。

この1、2年、政治家や行政、企業のみなさんも急に環境問題に熱心になったようにみえます。 それまでは、科学者や環境運動家がいくら警鐘を鳴らしても、 あまり耳をかしてくれなかった。 理由はいつも単純でした。 「環境問題に取り組むと経済に悪影響がでる」、と言うんです。 「経済成長のためには少しぐらい環境破壊も止むを得ない」、とか。 「環境問題は経済成長なしに解決できない」、などと言う人さえいたのです。 実は、いまだに沢山いるのですけど。

どちらにしても、経済がなにより優先だったわけです。 その結果、「国際競争力のため」といっては、環境税に抵抗したり、 景気を上向かせるために無駄な公共事業を進めたり、 会社の業績アップのために偽装すら行う、という異常な時代が続いてきたのです。

政府や企業だけでありません。 私たち市民の多くが、「豊かさ幻想」に囚われ、経済背長にワクワクして、 環境のことなんか2の次だったんです。 確かに日本は経済成長を遂げ、世界でも有数の豊かな国になりました。

では、その「豊かさ」の中身ははどんなものだったのか、それが問題です。 環境を犠牲にして、でもそのお陰でとても幸せな社会がつくられて、 そこに生きる人々も「幸せだ」、というのなら、 ある程度納得がいきますよね。

そこで皆さん、自問してみてください。
「自分たちは果たして幸せか」、 「日本は幸せな社会か」、 「世界は幸福な場所か」と。

これまで、豊かさを測る指標として世界中でつかわれてきたのが、 GNP 国民総生産であり、GDP 国内総生産でした。 「P」はPRODUCTS(プロダクツ)、つまり商品としてお金でやり取りされたものや、 サービスの総量とそれをやり取りしたお金の総額です。 世界中の国々が、GNPやGDPの上昇を目標としてやってきました。

これに対してもう一つGNHという言葉があります。 それは、ヒマラヤの小さな国、ブータンのジグメ・シンゲ・ワンチュク(Jigme Singye Wangchuck)国王が、 1970年代につくった言葉です。 「GNP」をもじって、最後の「P」の代わりに「HAPPINESS」、 つまり、「幸せ」の「H」を入れる。

「GNH」。直訳すれば国民総幸福とでもなりますでしょうか。

或る演説の中で、この前国王は、「GNPよりGNHの方が大事だ」と言いました。 それ以来30年、ブータンの人たちはこのGNHという考え方に取り組んできたのです。 そしてこの春、民主主義の国として、歩み始めたばかりの新生ブータンでは、 この「GNH」が、国の基本理念となったのです。

GNHは世界中に広がって、これまで常識ののようになっていた「経済成長」という考え方への批判でもありました。 豊かさにはいろんな問題があるんですね。 まず、豊かさが片寄っていることです。 世界の人口のたった2%の金持ちが世界中の総資産の半分以上を所有している。 そして、逆に、世界人口の貧しい方の半分が、総資産の1%しかもっていない。 まさにあきれるほどの不公平です。

不公平が問題なら世界中がアメリカや日本のように金持ちになればいいのでしょうか。 いやいや、全部の国が世界一豊かなアメリカのように高いGNPを持つようになって、 アメリカ人のような暮らし方をするためには、地球が4つも5つもいる、といわれます。

また、不公平なのは単に今生きている人間の間だけではありません。 自然環境の破壊は、未来そのものを壊すこと。 いいかえれば、僕たちが「富」とこれまで呼んできたものは、 未来に生きるはずの無数の人間たちや他の生きものたちが享受すべき分を奪い取ったもの。 つまり、未来からの盗品の山だったということです。

さて今、アメリカでは大統領候補指名戦の最中ですが、 1968年、つまり、ちょうど40年前の6月6日、 次期大統領の呼び声が高かったロバート・ケネディは、 候補指名戦のキャンペーンの最中に暗殺されてしまいます。 その2ヶ月あまり前のスピーチで、彼は、GNP、つまり使われたお金が多ければ多いほどいい、 という経済成長の考え方をこんなふうに痛烈に批判していました。

「アメリカは世界一のGNPを誇っている。でも、そのGNPの中には、 タバコや酒やクスリ、離婚や交通事故や犯罪や環境汚染や環境破壊、 にかかわる一切が含まれている」

「戦争で使われるナパーム弾も、核弾頭も。 警察の装甲車もライフルもナイフも、 子どもたちにおもちゃを売るために暴力を礼賛するテレビ番組も」

ケネディは次にGNPに勘定されないものを上げていきます。

「子どもたちの健康、教育の質の高さ、遊びの楽しさはGNPに含まれない。 詩の美しさも、市民の知恵も、勇気も、誠実さも、慈悲深さも」

そして、彼はこう結論しました。

「要するにこういうことだ。 国の富を測るはずのGNPからは、私たちの生きがいのすべてがすっぽり抜け落ちている」

かつて、豊かな国の国民は貧しい国の国民より幸せだ、とか、 人は金持ちになるほど幸せだ、というのは常識だと思われていました。 でも最近のいろいろな研究によって、この常識は今ではすっかり覆されています。 ケネディやブータンの前国王は、数十年前にすでにこのことを予言していました。 そして、豊かさ幻想が欲望の装飾を引き起こし、幸せどころかむしろ不幸や苦しみの原因になってしまう、 ていうことを見抜いていたようです。

2005年の春、僕はブータンに行ってみました。 そこですっかりブータンの魅力にとりつかれ、その後も2度訪問しています。 実際ブータンの村々を訪ねてみると、僕のいう「スローライフ」が健在で、 老若男女と問わず人々の幸福度はかなり高そうです。

豊かな自然、自給型農業、コミニティの助け合い。 人々が誇りとし、こころの拠りどころとする伝統文化。 人々は、よく集い、歌います。 子どもたちの楽しげで生き生きした様子にも強い印象を受けました。 同じ国の中ではむしろ豊かな街の方に問題が多くて暮らしずらそうです。 聞けばたいていの問題にはお金がからんでいる。 お金がないことではなく、お金があることが問題らしいのです。 幸せってなんだっけ。 ブータンは僕たちにこの忘れかけてた問いを思い出させてくれます。

6月は環境月間ですね。 100万人のキャンドルナイトの季節も近づいています。 この機会に皆さんも是非一度立ち止まってみてはいかがでしょう。 私たちが「豊かさ」という幻想に囚われていたせいで、 環境問題をはじめとした多くの深厚な問題を引き起こしてしまった。 とすれば、そろそろこの幻想から抜け出すときです。 この第一歩が、「幸せってなんだっけ」という問いです。 その先に、GNPからGNHへの道筋が見え、幸せの経済や、幸せの政治に向けての展望が開けてくるのではないでしょうか。

 

31 May 2008
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